大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和34年(う)1823号 判決

被告人 金超満

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人の論旨第一点について。

所論にかんがみ、原判決を記録と対比して調査するに、原判決が本件犯罪事実と刑法第四十五条後段の関係に立つ罪に付き確定判決のあつたことを認定する資料とした被告人に対する川崎簡易裁判所の判決謄本及びその引用にかかる起訴状謄本によれば、その犯罪の年月日が昭和三十四年一月二十日となつているにかかわらず、起訴年月日がその以前である昭和三十三年二月二日となつており、その間に矛盾のあることは所論指摘のとおりであるが、当審において取寄の上適法に証拠調をした右起訴状謄本に照らすと、起訴年月日は昭和三十四年二月二日であつて、前記の如く昭和三十三年となつているのは右判決引用の起訴状謄本の誤記であること明白である。被告人の原審公判廷における供述及び右判決謄本によれば、被告人は川崎簡易裁判所で昭和三十四年三月三十一日窃盗罪につき懲役一年二月に処せられ右判決は確定した事実は十分これを認め得るのである。のみならず、刑法第四十五条後段を適用するためには、只ある罪につき確定判決があつたことを判示すれば足り、その罪の具体的内容を判示することを要しないのであるから、証拠によらずして其罪について確定判決のあつたことを認定した違法があると主張する論旨は失当である。また原判決が併合罪加重をしたのは、確定判決を経ない本件四個の犯罪事実を刑法第四十五条前段の併合罪となしたことによるものであつて、確定判決のあつた犯罪との関係で加重をなしたものではないから、法令適用の誤を主張する論旨は、採るを得ない。論旨はすべて理由がない。

被告人の論旨第一点について。

所論は、被告人は昭和三十四年三月三十一日川崎簡易裁判所において同年一月二十日に犯した窃盗罪により懲役一年二月に処せられたものであつて、本件は右罪の余罪に該るものであるにかかわらず、原審が両事件を併合審理しなかつたのは違法であると主張するのであるが、併合罪の関係にある数罪は必ずしも常に同一裁判所において同時に審判されなければならぬいわれなきのみならず、当審において取寄にかかる川崎簡易裁判所の前記事件の記録及び本件記録を調査しても、被告人又は弁護人が併合審理を請求した形跡も存しないから、論旨は理由がない。

弁護人並びに被告人の各論旨第二点について

各所論により、本件記録に現われた本件犯行の動機、態様、回数、被害額その他諸般の事情を考量すると、前記取寄記録に徴し明らかなように、被告人が、前記の如く、別に懲役刑の言い渡しを受けたことを参酌しても、原判決の量刑は相当であつて、これを軽減すべき事由は存しない。各論旨は理由がない。

なお職権をもつて調査するに、当審において適法な証拠調を経た被告人に対する横浜地方検察庁検察事務官作成の前科調書によれば、被告人は昭和三十年六月三日横浜地方裁判所において窃盗罪により懲役五月(未決勾留日数を刑期に満つるまで算入)に処せられ、右判決は同月十一日確定して直ちにその執行を終り、また昭和二十八年五月十四日川崎簡易裁判所において賍物運搬罪により懲役一年及び罰金三千円に処せられ、右判決は同三十年六月二日確定し、同三十二年三月二十七日該懲役刑の執行を終了したことを認め得るのであつて、本件各犯行はいずれも右各前科と三犯の関係に立つものである。しかるに原判決は右各前科の事実を看過し、刑法第五十六条第五十九条第五十七条を適用していないのであるから、右は法令の適用に誤があるものというべきであるが、本件は被告人のみが控訴をした事件であつて、法律上原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない筋合であることに徴すれば、右過誤は結局判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。従つて右法令適用上の誤を理由として原判決を破棄するの要はないものと考える。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却し、当審の訴訟費用は同法第百八十一条第一項但書により被告人にこれを負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩田誠 八田卯一郎 司波実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例